top of page

研究テーマ

哺乳類大脳新皮質の起源の解明

〜発生と進化の観点から探る神経細胞分化のメカニズム〜

 

わたしたち人間の脳表層の大部分を占める大脳新皮質は、多種多様な神経細胞から構成され、哺乳類に特徴的な6層構造をもっています。興味深いことに同じ有羊膜類であり哺乳類に進化的に近い鳥類と爬虫類は、同じ様な性質の神経細胞を持つとされますが、それぞれ核構造・3層構造と、哺乳類の6層構造とは大きく異なった脳細胞構築を示します。それぞれの種に適した形に最適化され脳は進化してきたと考えられますが、神経細胞の性質は共有しているのに、どうして大きく異なるかたちの脳がつくられてきたのでしょうか?この問いを明らかにするのは、異なる種の脳発生過程に着目する必要があります。

そこでわたしは有羊膜類の中でも、哺乳類(マウス等)、鳥類(ニワトリ等)、爬虫類(ヤモリ等)の胚発生過程に着目し、それぞれの脳構築過程を明らかにし且つ種間比較していくことで、最終的に哺乳類でなぜ6層構造を獲得できたのか、分子・細胞レベルで解明していきたいと思っています。この研究はヒトに至る上で複雑化し高度な情報処理を可能にした大脳新皮質の起源を探る研究であり、将来的にヒトの個性の起源や脳疾患の原因解明にも役立つものと確信しています。

わたしの実験系で特に着目しているのは細胞系譜です。細胞系譜とは、ひとつの神経幹細胞から生み出される細胞群(クローン)を指します。そして、細胞系譜を標識し、定量化していく研究を系譜解析・クローン解析といいます。これら細胞系譜・クローン解析は発生学の基本であり、実に多くの情報を提供してくれます。そこでフランス留学中に自身が開発してきた新しい遺伝ツール、および最新のイメージング技術を活用して、これまでにない細胞系譜解析を有羊膜類胚を用いて展開していきます。

​これまでの研究

大学学部時代(1999年4月〜2003年9月)

鹿児島大学教育学部 学校教育教員養成過程 理科専修(動物学)

 

小学校、中学校、高等学校教員免許(理科・社会)を取得しつつ、卒業論文ではハエトリグモの行動を観察しました。

Ph.D.取得まで(〜2009年9月)

鹿児島大学大学院連合農学研究科 生物資源利用科学専攻(侯 徳興 教授)

修士課程前から学位取得までの約6年間は鹿児島大学侯教授のもと、食品性低分子化合物のポリフェノール(なかでもフラボノール)を用いて、フラボノールの細胞がん化抑制機構に対する分子メカニズムの研究を行いました。細胞形質転換を生じやすい培養細胞系を用いて、フラボノールと細胞内シグナル伝達系との関係性を調べました。特に、ポリフェノールが細胞に摂取されたのち、プライマリに標的とするキナーゼの同定法を確立し、直接的な分子標的を明らかにすることを可能にしました。

 

 

ポスドク1(2009年10月〜2015年3月)

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 大脳皮質発生研究チーム

(花嶋 かりな チームリーダー)

最初のポスドクである理研CDBでは発生生物学特に神経発生の分野へ移り、花嶋かりなチームリーダー(現早稲田大学)のもと、神経幹細胞の運命決定メカニズムの研究を行いました。

わたしたちの脳を作り上げる多様な神経細胞は、発生期に共通の神経幹細胞から、順次異なる神経細胞が生み出されることによって、ある程度決まった神経細胞が決まった数生み出されることが知られています。この神経細胞を生み出す切り替えプログラムがに異常が生じると、正常な大脳新皮質は形成されず、先天性の脳疾患の原因となります。しかしながら、この切り替えプログラムに関してはいまだにわかっていないことばかりでした。

そこでわたしは終脳特異的に発現する転写因子Foxg1に着目し、神経発生初期のFoxg1の機能を調べていきました。その結果、Foxg1は最初に生み出される神経細胞カハール・レチウス細胞から、次に分化する深層ニューロンへの分化の切り替えのスイッチとなることを発見しました。興味深いことにFoxg1の分化の切り替えは、おそらく「哺乳類特異的」にみられる現象だということがChIP-seq解析から想定できました。6層の大脳新皮質自体が哺乳類特異的な器官であることから、Foxg1の種特異的な機能が大脳新皮質の獲得に重要であったのではないかと考え、現在の研究へと移ります。

ポスドク2(2015年4月〜2020年6月)

Institut de la Vision, Paris, FRANCE  Team Jean LIVET

(LIVET Jean チームリーダー)

理研ポスドク時代後半、脳進化発生の研究をすすめていましたが、モデル生物であるマウス以外の生物種胚(ニワトリやヤモリなど)では、遺伝子改変生物があまり一般的でなく、目的とする遺伝子の発現解析や細胞系譜解析において満足のいく実験を行うことが困難でした。これは従来型の遺伝子発現ベクター(哺乳類発現ベクターやトランスポゾンベクターなどのDNAベクター)では、遺伝子導入後ゲノムに組み込まれず発現量の大きく異なる「エピソーマル発現」が生じてしまうためであり、エピソーマル発現を抑えることのできるDNAベクターを作ることがその解決策でした。そこでフランス留学中に開発したのは、ゲノム挿入依存的に目的遺伝子の発現を生じることのできる新しい遺伝子発現スイッチ「iOnスイッチ」です(詳細はToolsへ)。iOnスイッチを用いることで、ゲノム由来の発現を遺伝子導入直後から観察することが可能になり、安定発現細胞レベル・遺伝子改変生物レベルの遺伝子発現解析が、従来の一過的な遺伝子導入法を用いることで可能になりました。iOnスイッチは研究分野を問わず非常に汎用性の高いベクターで、これまでのDNAベクターに変わるスタンダードな発現ベクターとして期待できます。

 

 

主席研究員(2020年7月〜)

公益財団法人 東京都医学総合研究所 脳神経回路形成プロジェクト

(丸山千秋 プロジェクトリーダー)

これからのプロジェクトでは、脳進化発生の研究をiOnスイッチや自身が開発した他の遺伝ツールをフルに活用しながら研究を進めていく予定です。当プロジェクトでは特に初期分化ニューロンであるサブプレートニューロンに着目して研究を進めています。いまだに謎が多いサブプレートニューロンと、同じ時期に生まれるカハール・レチウス細胞などに関して、脳発生進化における細胞機能とその意義を明らかにしていきたいと思っています。

また、これまでに開発してきた遺伝ツールに関しては、分野を問わず共同研究や提供を積極的に進めていくつもりです。論文掲載済みのツールに関しては、Addgeneから分与可能です。

​ご質問等はいつでも受け付けています、直接ご連絡ください。

スクリーンショット 2020-06-28 01.54.30.png
スクリーンショット 2020-06-28 01.58.05.png

​ニワトリ網膜神経細胞(RPE層)

​3色LiOnスイッチ遺伝子導入

スクリーンショット 2020-06-28 02.03.11.png
スクリーンショット 2020-06-28 02.05.54.png
スクリーンショット 2020-06-28 02.16.20.png
スクリーンショット 2020-06-28 02.16.43.png

(右図)

3色のLiOnベクター(GFP/RFP/IRFP)をニワトリ脳胎生4日目に導入し、7日目に解析したもの(2020.12.30)

cE8 3LiOnmix+PB comp(RGB)mod2.jpg
IMG_5745_edited.jpg
bottom of page