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ここでは、論文化されてきた遺伝ツール等とそのアプリケーション例などを紹介します。

1. iOn Switch (integration-coupled gene expression On switch)

Original paper:

Kumamoto T, Maurinot F, Barry R, Vaslin C, Vandormael-Pournin S, Le M, Lerat M, Niculescu D, Cohen-Tannoudji M, Rebsam A, Nédelec S, Loulier K, Tozer S, Livet J,

"Direct readout of neural stem cell transgenesis with an integration-coupled gene expression switch"

Neuron, in press 

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ゲノム挿入依存的遺伝スイッチ(iOnスイッチ)は、DNAトランスポゾンシステムの一つpiggyBacトランスポゾンシステムを利用した新しいタイプのDNAベクターです。

従来私たちが使っている発現ベクターやトランスポゾンベクターでは、プラスミドを細胞に遺伝子導入後、導入されたプラスミドのコピー数に応じた一過的な過剰発現「エピソーマル発現」が生じます(図1:緑・青のグラフの推移。導入後3日目くらいまで、非常に高い発現が生じる)。このエピソーマル発現は、ゲノムに組み込まれないため細胞分裂が進むにつれ希釈され、そして導入コピー数の違いにより細胞間で大きくバラついた発現をみせます。

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このエピソーマル発現は遺伝子導入直後のゲノム由来発現をマスクするので、たとえば安定発現細胞などを作るときは、このエピソーマル発現を除去しゲノム由来発現を計測するのに、数週間単位の薬剤セレクションを必要としていました。そのため細胞株の樹立に長い時間を必要としていました。

図1 異なるベクターの遺伝子導入後14日目までの発現量の比較

ゲノム挿入依存的遺伝スイッチ(iOnスイッチ)は、DNAトランスポゾンシステムの一つpiggyBacトランスポゾンシステム(図2左)を利用した新しいタイプのDNAベクターです(図2右)。

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図2 iOnスイッチシステム

iOnスイッチは、従来のpiggyBacシステムと比べ、PromoterとGOI(目的遺伝子配列)を反対向きにおいたこと、そして5'と3'のPB terminal repeatを同じ向きにおいたことが、主な変更点です。

このことにより、iOnスイッチはpiggyBacトランスポセース(PBase)が作用する前は、目的遺伝子の発現は見られず、PBaseがベクターをカットしゲノムに挿入するとほぼ同じタイミングで目的遺伝子の発現を起こすことに成功しました(図2左)。

iOnスイッチの発現をHEK細胞を用いて確認すると、PBaseなしでは目的遺伝子(ここではRFP:赤色)の発現はほとんど見られず(図3右から2番目)、PBaseと共導入することでその発現が見られることがわかりました(図3右)。従来のpiggyBacベクターで見られるような、エピソーマル発現(図3左)はほとんど抑えることに成功しました(90.9% → 0.4%)。

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図3 従来のpiggyBac(左)とiOnスイッチ(右)のHEK細胞における発現

次にiOnスイッチをベースにさらにエピソーマル発現を抑えるための工夫として、目的遺伝子の開始コドン(ATG)を目的遺伝子配列から切り離したベクター(Leak-proof iOn: LiOn)を作成しました(図4左)。LiOnはiOnよりもより非特異的な発現が少ないベクターとして利用できます。LiOnベクターはGFP/RFP/ IRFPと色を揃え、3つのLiOnベクターとPBaseを細胞に導入するだけで、多くの色のコンビネーションの発現を可能にしました(図4右)。

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図4 LiOnベクターの設計と、3色LiOnベクターのHEK細胞での発現

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発生生物学や神経科学の研究でよく使われるツールに部位特異的制限酵素を用いた、細胞種特異的な遺伝子発現(組替え)法があります。その代表的なものにCre/loxPシステムがあります。詳細は割愛しますが、Cre遺伝子を発現する特異的な系譜細胞のみ標的とするloxPを含んだ遺伝子を発現させるように設計できます。Creを用いた手法はいまでは一般的に使われます、しかしながら、Creという酵素は非常に敏感に作用します。ほんの少しのCreがあるだけで、標的のlox遺伝子が組替わり発現が変化します。良く働く反面、良く働きすぎて非特異的なCreの組替えをどこまで抑えられるかが重要なポイントになります。そこでわたしたちは、LiOnシステムとSplit-Creおよびデグロン配列PESTを組み合わせた、LiOn-Creを作成しました(図5)。このLiOn-Creを用いると、従来のCreベクターを用いるより、より非特異的な組替えを生じず、目的とする細胞だけを組み替えることに成功しました。

図5 LiOn-Creベクターの設計

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図6 iOnスイッチを用いた各種アプリケーション例

最後に、iOnやLiOnを用いたin vitroおよびin vivoのアプリケーションをオリジナルの論文で紹介しています(図6)。いずれも既存の手法の劇的なスピードアップ・効率化、またこれまでにできなかった実験を可能にした実用的なものです。また多くの共同研究・提供先のラボで、異なる実験系で使っていただいています。わたしたちはこのiOnスイッチは、これまでの発現ベクターを大きく変えるゲームチェンジャー的な遺伝ツールになると確信しています。

​都医学研では、iOnスイッチを用いて神経系器官(主に脳)の進化発生研究に取り組む予定です。

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